地下鉄として乗り込んだ列車がいきなり山を登りはじめ、しまいには路面電車になってしまう。そんな路線が京都府と滋賀県の間を走っています。今回は、そんな京阪京津線の乗車記をお届けします。
京都と大津で京津線
京津線と書いて「けいしんせん」と読みます。耳慣れない路線名ですが、京都の「京」、大津の「津」を冠した、京都市の御陵(みささぎ)駅と大津市のびわ湖浜大津駅を結ぶ路線です。御陵駅は京都市東端の山科区にありますが、ここから京都市営地下鉄東西線に乗り入れて京都市内へと直通しています。
現在は京都~大阪間を結ぶ京阪本線の系統から完全に独立していますが、かつては京津線として京都市の三条まで乗り入れており、大阪方面への直通列車も走っていたんだとか。
そんな京津線ですが、わずか7kmほどの路線でありながら次々に変化していく車窓が多くの鉄道ファンを惹きつけています。実際に、その変化を見ていきましょう。
始まりは地下駅から
まずは、起点である御陵駅へとやってきました。それにしても、御陵と書いてみささぎ、読めないですよね…
地下鉄東西線の特徴は、なんといってもその設備の豪華さです。東西線のホームには、フルスクリーンタイプといわれる上から下まで完全なドア形式となっているホームドアがあります。全国でも珍しいタイプです。
京都市営地下鉄のなかでもフルスクリーンタイプが採用されているのは東西線だけで、もう片方の烏丸線は一般的によく見られるホームドアです。
御陵駅は地下鉄東西線の終点ではなく、ここで浜大津方面と東西線の終点・六地蔵方面に分かれます。時刻表を見てみると、浜大津方面は1時間あたりわずか3本。府県庁所在地を結ぶ路線とは思えない本数の少なさです。
ちなみに、地下鉄東西線は烏丸線と比べると乗客数が非常に少なく、京都市の財政難の一因ともいわれています。当日も観光地の多い蹴上駅以東は乗客が大きく減り、なかなか厳しいな…という印象がありました。
中盤は山越え区間
地下鉄東西線の話題が長くなりましたが、ここから京津線に乗車していきます。
御陵駅を出るとすぐに地上に出て、まずは山科駅周辺の住宅街を抜けていきます。そして2駅目の四宮駅を過ぎると、一気に急こう配区間に入ります。この辺りは和歌などでも名前が出てくる逢坂峠。京都と琵琶湖を隔てる峠です。
通常の鉄道では考えられない勾配や急カーブの連続。特に大谷~上栄町間では、ほとんど直角といってもいい急カーブをゆっくりゆっくり曲がっていきます。
京津線の急こう配を特に感じることができるのが、大谷駅のホーム。下の写真、別にスマホを傾けて写真を撮っているわけではありません。大谷駅の停車中は、普通に車内で立っているだけで勾配を体で感じることができます。
ホームの壁の掲示物を見ると、このホームがいかに斜めになっているかがよく分かると思います。
終盤、4両編成が路面電車になる
まるで登山電車のような区間を終えて、最後の上栄町~びわ湖浜大津間は道路との共用区間となります。4両編成の車両が道路上を走る、全国唯一の区間です。
というのも、京津線の4両編成の総延長は、道路との共用区間を走る鉄道の車両長としては完全に「法律違反」となっているからです。京津線は特例として、この区間の走行が認められています。
びわこ浜大津駅(滋賀県大津市)
— musan|まち歩きライター (@musan_tr_gh) 2022年10月28日
京都の地下鉄から直通してくる4両編成が道路上を走る全国的にも珍しい区間。道路上なので車も軌道上に入ってきます。
車と並走してこちらにやってくる様子は圧巻! pic.twitter.com/yD8kc4C6Mv
ここが、鉄道ファンにはおなじみ、道路と鉄道の共用区間の様子です。この日は平日でしたが、沿道にはカメラを構える方が複数いました。
共用区間では車と同様、赤信号では停車します。そして右折する車は普通に軌道上に入ってくるので、写真のように軽トラに追いかけられることもあります。この光景を、15分前まで地下鉄を走っていた車両が通るというのは、実に興味深いです。
鉄道ファンには人気だが…
鉄道ファンには人気の京津線ですが、なかなか厳しい現実もあります。先述の通り、直通先の地下鉄東西線は大赤字。もちろん京津線も赤字です。
一方で、京津線の特殊な線形を走るために、京津線の車両である800系電車は様々な特殊設備があり、一説には車両単価は新幹線よりも高いともいわれています。他路線との汎用性もなく、他線の車両の融通を利かせることもできません。
そして一般的には、京都~大津間の移動は京津線よりも早くて安いJR線が使われ、両都市間の輸送手段としても極めて劣勢です。そのため、廃止の噂が絶えない路線でもあります。
道路上を走る電車の写真を撮るのも良いけれど、せっかく足を運ぶのであればぜひ乗車しておきたい路線です。終点のびわ湖浜大津駅の前には、琵琶湖がバーッと広がっています。ぜひその風景も含めて、楽しみたいものです。