長野県といえば、ガソリンをはじめとした石油の値段が高いことで知られています。その理由として、内陸県である長野は海沿いから鉄道で輸送する必要があるため、というのはご存じの方も多いかと思います。
今回は、そんな長野県への石油輸送について、長野県内・県外それぞれの拠点をご紹介していきます。
北の拠点・坂城駅
長野県への鉄道による石油輸送の拠点駅は、2つあります。そのうち、北側の拠点はしなの鉄道の坂城駅となります。坂城駅の脇には石油を貯蔵する油槽所があり、そちらへ石油類を運ぶための貨物列車(石油輸送列車)が1日数本運転されています。
坂城駅の旅客用ホームは1面2線(1つのホームに2本の線路)で構成されていますが、その脇に数本の線路が並んでおり、ここに石油輸送列車が発着します。訪問した際にちょうど貨車の入れ替え作業が行われていたので、観察してみました。
坂城駅で石油輸送列車を観察してきました pic.twitter.com/Rs9uGtvEjJ
— musan|まち歩きライター (@musan_tr_gh) 2022年12月8日
坂城駅の周辺には油槽所のタンクが立ち並び、タンクローリーが国道18号線に向けてどんどん出発していきます。その光景は、ここが石油輸送を支える基地であることを強く感じさせます。
3枚目の写真、留置されているガソリン輸送車両の左側には、写真ではやや見にくいですが「根岸駅常備」という文字が書かれています。根岸駅?そんな駅どこにあったっけ、というと、実は横浜です。京浜東北・根岸線と言われたらピンとくる方もいるかもしれません。あの根岸です。
そんな根岸駅については、次の次の項目で紹介します。
(坂城駅訪問日:2022年12月2日(金))
南の拠点・南松本駅
同様に、長野県の石油輸送の拠点となっているのが、JR篠ノ井線の南松本駅です。
南松本駅は戦前より貨物輸送の拠点となっており、旅客ホームよりも遥かに広い貨物ヤードに、たくさんのコンテナが並んでいます。なお、石油輸送の拠点も南松本と表現されるものの、油槽所や石油輸送列車の留置線は南松本駅の南側、どちらかといえば平田駅寄りの場所にあります。
篠ノ井線の列車から、留置されている石油輸送列車の様子を見ることができます。
長野県民を支える石油輸送列車たちです
— musan|まち歩きライター (@musan_tr_gh) 2022年12月19日
(篠ノ井線 南松本〜平田) pic.twitter.com/OYYfSfq9kM
ちなみに全然余談なんですが、南松本駅前にある「らあめん 鶏支那屋」さん、なぜか残されている廃線を遮るように建っています。立地のインパクトで入ってみたら、普通に美味しい人気店でした。笑
(南松本駅訪問日:2022年12月10日(土))
ルーツは横浜と三重
これらの拠点へは定期の貨物列車が運行されており、そこにガソリンなどが積載されてきます。この貨物列車の起点は、根岸(神奈川県)および四日市(三重県)となっており、それらの場所から日々、主にJR中央本線を通って運ばれてきます。
実際に貨物列車の時刻表を見てみると、根岸⇔坂城、四日市⇔南松本の組み合わせが多いようです。(ただし南松本については石油以外の貨物の取り扱いも多いようで、千葉・東京・愛知方面にも多数の運行がある)
そうそう、世の中には貨物列車の時刻表が販売されてたりするんですよ。知ってました?
根岸・四日市ともに海沿いの工業地域として知られるエリアですが、いずれも駅付近に製油所(海運で輸入した原油を精製する場所)があり、それを長野県内の油槽所へ送り届けるのが、坂城や南松本を発着する石油輸送列車というわけです。
ここまで見てきた通り、内陸県である長野県への石油輸送は主に、
「臨海工業地帯の製油所から鉄道で県内の油槽所へ⇒タンクローリーで各地のガソリンスタンド等へ」という流れになります。
*本当は根岸や四日市の実施調査もしたいのですがまだ行けていません。いずれ足を運ぶことがあれば追記できたらと思っています。
<2023.1追記>四日市へ行ってきました!
石油を載せたら通れないトンネルがある
ここでよく言われることに、「すべてトラック輸送でできないの?」ということが挙げられますが、長野県に関しては特に地形面の理由で難しいところがあります。
とりわけ四日市をはじめとした中京地区からの輸送でネックとなるのが、中央自動車道の岐阜・長野県境に位置する恵那山トンネルの存在。恵那山トンネルは道路法の規定により石油などの危険物を積載した車両の通行を禁止されているので、石油を積んだタンクローリーは通過できません。
恵那山トンネルを避けるためには国道19号線をはじめとした一般道迂回が必要なため輸送ルートとして現実的ではなく、そもそもそうした制限がなかったとしても、長い距離をタンクローリーで輸送するというのは効率が悪いため、現在まで鉄道での輸送が採用されてきたといえます。
(なお、上信越自動車道や山梨県側の中央自動車道を経由した場合には、危険物積載の制限を受けることはありません)
石油輸送列車は基本的に、前半の画像で紹介した緑色のタンクで走っていることが多いようです。先述の坂城駅・南松本駅の他に、折り返しのために篠ノ井駅で車両が見られることも多いですし、すれ違いや列車行き違いでその姿を見られることもあるので、もし見かけたら「これが横浜や三重からやってきてるのか~」と思いをはせてみてくださいね。
▽▽JR中央本線の過去記事はこちら▽▽