このブログではこれまで、日本全国、そして時には海外も含めて、様々な場所の旅やまち歩きについて触れてきました。まちにはそれぞれの個性がありますが、一方でそうしたまちの特性を「法則化」していくことで見えてくる面白さもあると考えています。
身近なまちを取り上げながら、記事を読んでくださる皆さんの住むまちでも使えるかもしれない「まち歩きの視点」を、様々なパーツから紐解いていきたいと思います。
3回目の今回のトピックは「同じ名前」。かつて『ブラナガノ』でも登場した城山公園に着目してみると、実は同じ名前で全国各地に公園が存在しているらしいです。同じ名前なら、共通点もたくさんあるのでは?ということで、実際に全国いくつかの城山公園にクローズアップしてみます。
「城山公園」は長野市と松本市の共通項
長野県の二大都市である長野市と松本市ですが、その両方に城山公園が存在するのも面白いところです。まずは、この2か所の城山公園について見ていきましょう。
◎長野市の城山公園
長野市の城山公園は、善光寺のすぐ東側にあります。隣接して美術館(長野県立美術館)や動物園(城山動物園)などもあり、観光客にも市民にも親しまれる公園となっています。
「城山公園」というからには城のあった山ということになるわけですが、長野市は善光寺のイメージでお城なんてあったっけ?という人も少なくないと思います。現在ではその跡はほぼ残っていませんが、城山公園の脇、今は健御名方富命彦神別神社(水内大社)が建つ場所に、かつて横山城というお城があったとされています。
そしてこの横山城の位置していた概ねの場所が、善光寺などの建つ台地の東端。東側は急な崖になっていて、千曲川沿いの平地を一望することができます。以前の記事でも登場した地理院地図を参考にすると一目瞭然。ブラタモリの言葉を借りれば、まさに台地のヘリというわけです。
城のあった山にある公園、だから城山公園。他の城山公園の地形も見てみましょう。
◎松本市の城山公園
松本市の城山公園は、松本の中心市街地の北側。こちらは犬甘城(いぬかいじょう)というお城があったみたいです。江戸時代後期から城跡を一般庶民にも開放しはじめたのだとか。
こちらの城山公園の特徴はなんといっても北アルプスの眺め。公園内には展望台もあり、そこからは松本平の北側と、その奥に広がる北アルプスを一望できます。
上の写真から想像はついていると思いますが、こちらも台地のヘリです。分かりやすいですね。一応、地形も確認しておきましょう。犬甘城の南東に松本城があり、しっかりと見下ろすことが可能です。
ここまで2つの城山公園を見てきて、その成り立ちの地形の特徴にはかなり共通点があることが分かります。台地のヘリにあるということは、その街の中でも抜群の眺望が期待できる。行ったことのない場所でも、そういう仮定をしてみても良さそうです。
そこで、他の城山公園についても調べてみます。
「しろやま」も「じょうやま」も全国にたくさん
ここまで長野県内の2つの城山公園(じょうやまこうえん)について見てきましたが、全国的には「しろやま」と読む城山公園もたくさんあります。というか、「しろやま」の方が多数派のようです。ちゃんとWikipediaにもまとめられているのが興味深いです。
例えば、鹿児島県鹿児島市にある城山公園なんかは割と有名ですよね。明治初期の西南戦争の激戦地、そして西郷隆盛の最期の地としても広く知られています。おそらく、全国の城山公園で最も知名度がありそうです。ちなみに、こちらの城山公園の読み方は「しろやま」です。
これは2013年に訪問した際の写真ですが、鹿児島市の市街地、そして桜島を一望できる好立地にあります。こちらも例に漏れず、台地のヘリにあります。
もう一つ見てみます。今度は神奈川県小田原市の城山公園。読み方は「しろやま」です。今度はいきなり地形図を見ていきましょう。今回も真ん中の十字部分が城山公園です。
やはりこちらも、台地のヘリにありますね。こちらには足を運んだことはありませんが、小田原市のホームページによればこちらの公園には「海と城の見える丘」という別名もあり、分かりやすく眺望をウリにしていますよね。
近くの小田原城には行ったことがあるので、参考までに小田原城の天守閣からの景色を載せておきます。小田原城もやや高台の上にあり、相模湾を一望できます。
全国の城山公園、それぞれに地域の顔となる眺望を持つ可能性が見えてきました。こうやって改めて比較してみると、なかなか興味深いです。
「例外」は、城の歴史から考察する
もちろん、全ての城山公園が台地のヘリにあるわけではありません。例として、埼玉県桶川市の城山公園を挙げてみます。こちらは一度も足を運んだことがないので、地形図から見た推測にはなってしまいますが…
地形を調べてみてびっくり。こちらの城山公園は周囲よりも標高が若干低くなっています。山とは?むしろ谷では?
ここで頭をよぎるのは、日本史の授業で習った城の構造。「山城」「平山城」「平城」です。城というとなんとなく、山や丘の上に築かれた石垣に…というイメージがありますが、それはあくまで山城や平山城の話。
戦国の世が落ち着き江戸時代が近付いてくると、城下町の発展など経済的な要因も考慮して、平地に濠で囲んだ城を築いていくことになります。これが山城→平山城→平城へと変遷していく流れとなります。
現在の長野市の城山公園にあたる横山城、松本市の城山公園にあたる犬甘城については、いずれも南北朝時代頃のものと言われています。対して桶川市の城山公園にあたる三ツ木城については、情報が少なく築城の年代が不明だったので何とも言えないのですが、やはり平城に分類されるようです。
一口にお城と言っても、時代や社会情勢によって様々な形があるわけですね。とはいえ、平城跡の公園に城"山"公園と名付けたのは謎ですが…
もともとその場所にあった城がどうであれ、城山公園と名付けたのが現代の都合ですから、こうしたミスマッチ(?)があることも無理はないでしょう。そこも含めて楽しめたらいいですね。
共通の名称は、まち歩きのアイテムに
ここまで、城山公園という共通の話題から、全国各地の観察をしてみました。地形やお城の構造まで、一つのトピックから幅広く展開できるというまち歩きの面白さが垣間見えたのではないでしょうか?
他にも、たくさんの「全国各地にある同じ名前のもの」があると思います。また何か興味深いものがあったら取り上げてみたいですね。皆さんもお出かけ中なんかに「これ、自分の地元にもあるかも」というものを見つけたら、ぜひそのワードで調べてみてください。新しい発見があるかもしれませんよ?
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