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【全線再開までもう少し】南阿蘇鉄道、なかなかアツい。

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熊本県を走る南阿蘇鉄道をご存知でしょうか。

南阿蘇鉄道は、熊本県南阿蘇村の立野駅と高森町の高森駅を結ぶ第三セクター鉄道です。2016年の熊本地震で甚大な被害を受けながら、2023年夏の全線運転再開に向けて準備が着々と進んでいます。

先日乗車する機会がありましたので、その様子のご紹介と南阿蘇鉄道を取り巻く環境について少しご紹介していきたいと思います。

 

”火山の間”を走る南阿蘇鉄道

まずは、南阿蘇鉄道が走るエリアの地図を示してみます。

地図の北側には「阿蘇中岳」という文字がありますが、これが一般的にいう阿蘇山です。では南阿蘇鉄道などが通る場所を「阿蘇山のふもと」と呼ぶかというとこれが微妙なところで、南側は阿蘇山の外輪山となるので、正確には阿蘇山のカルデラの中を通っているのが南阿蘇鉄道、ということになります。

ちなみに、あまり山のことは詳しくないので詳細の言及は避けますが、阿蘇山という山はなく、阿蘇五岳という火山群の総称です。

mag.yamap.com

こうした特殊な地形にある鉄道路線なので、これまで幾度となく自然の猛威に悩まされてきました。2016年4月の熊本地震の影響で甚大な被害を受け、2023年の現在に至るまで全線での運行は行われていません(途中の中松駅~高森駅間は2016年7月より運行再開)。

 

1日わずか3往復。「観光鉄道」として走り続けた7年間

2023年1月現在、南阿蘇鉄道の運行区間は中松駅~高森駅間の7kmほどとなっており、1日わずか3往復の運行となっています。

運行本数が少ないローカルというのは全国に増えてきており、その多くは通学需要にほぼ特化した朝夕主体のダイヤとなりますが、南阿蘇鉄道の時刻表を見てびっくり。なんと10時台~15時台のみの運行という、通勤・通学需要とは真逆のダイヤとなっています。

南阿蘇白川水源駅の時刻表。終電は15:28。

このような形になっているのは、訪問が1月だったことも影響しています。毎年3月~11月の土休日・行楽シーズン等を中心にトロッコ列車の運転があり、1日4往復の運行があるそうです。

とはいえ、全線の半分未満の距離、しかもJR線との接続もない区間での短距離での運行のため、事実上は観光需要に特化した路線として7年近くもの間運行を続けてきたことになります。こうした存続の仕方は全国でも異例中の異例といえるかと思います。

今回は中松駅前にレンタカーを駐車し、中松~高森間を往復で乗りました。

中松駅舎

列車の方向幕、本来は「立野-高森」となるところですが、応急処置としての「中松」の文字が目立ちます。応急処置とはいっても、7年近くもこの状態なんですよね。

天気もあまり良くなく、寒い水曜日の昼間という条件なので、列車を待っていたのは自分だけ。運転手さんとちょっとお話ししました。

貸し切り!

往復乗車の旨を伝えると、往復分まとめての支払いでも良いですよ~とのこと。同じ運転手さんが往復しているんですね。さらに「帰りに団体の方が乗ってきますよ」と親切に教えていただきました。水曜日に団体とは、どんな方々なんでしょうか。楽しみです。

まずは往路の貸し切りを楽しみます。ちなみに乗車した列車はトロッコ列車ではないものの、運転手さんによる観光案内付きの低速運転となっており、沿線の景色を存分に味わうことができます。僕一人のために直々の観光案内…ありがとうございます。

列車はゆっくりゆっくりと進み、20分強で高森駅に到着。

高森駅舎

 

積極的なグッズ展開とインバウンド需要

高森駅にはすでに折り返し列車に乗車する団体の皆さんが到着していました。どうやら韓国人観光客のグループのようです。駅舎内には韓国語が飛び交い、到着した列車の前で記念撮影が始まります。

「第二外国語」は韓国語

高森駅の駅名標をよく見ると、英語の下にはハングルが書かれています。この「第二外国語」にあたる部分、全国的には中国語表記が多い気がしますが、九州では韓国語が多い印象です。

実際、九州におけるインバウンド需要の半数が韓国からというデータもあり、韓国人観光客の数が九州の観光業を左右するといっても過言ではありません。

なんと高森駅には韓国語が堪能な社員さんもいて、団体の皆さんに韓国語で自己紹介して大いに盛り上がっていました。ちなみに、その方が高森駅のグッズ売り場のレジも担当されていて、グッズを購入した僕まで「カムサハムニダ」と言われたのはご愛嬌。

復路の列車は結局、僕と団体の皆さんだけでした。運転手さんの観光案内は日本語だけなので、団体のガイドの方?が通訳していました。

韓国語が飛び交う車内

もう一つ驚いたのが、グッズの種類の多さです。

www.mt-torokko.com

オンラインショップを見るだけでも分かりますが、ここに掲載されているグッズの多くが高森駅で販売されています。しかも地方のローカル線にしては(と言ったら失礼ですが)デザインも魅力的で、買いたくなるグッズが見つかります。

何より、紙袋のデザインが素敵。鉄道好きの友人に向けてトロッコショコラを買って帰りました(トロッコショコラ、普通にお菓子として美味しかったし意外と日持ちもするし常温保存可なのでマジでオススメです)。

紙袋のデザインが可愛らしい

 

「Reconstructed in 2023」驚きの新車導入

もう少しで全線再開を迎える南阿蘇鉄道ですが、地方ローカル線では異例とも言える新型車両導入のニュースがありました。

www.mt-torokko.com

このニュースを知らずに現地へ赴いた僕は、中松駅を訪れた際に現在は営業運転を行っていないはずの立野方面から真新しい車両がやってくるのを見てさぞかし驚きました。同区間ではすでに、夏の全線再開を見据えた試運転が行われているようです。

試運転中の新型車両、MT-4000形

Reconstructed in 2023 という文言に、復興への強い意志を感じる

新型車両の側面には「Reconstructed in 2023」と書かれており、まさに2023年から再スタートを切るという力強いメッセージを感じます。公式リリースによれば、立野駅で接続するJR豊肥本線への乗り入れにも対応した仕様になっているというのだから驚きです。

それにしても、ですよ。
7年近くも鉄道路線としてはほぼ機能不全の状態で、しかも被災を抜きにしてもお世辞にも経営状況が良いとは言い難かった南阿蘇鉄道に、突如として新型車両が入ってくるのは不思議じゃないですか?全線再開だけでもかなり驚きなのに。

最後に、そのあたりの話題に少し触れたいと思います。なお、最後の項については完全に、YouTuberの鐡坊主さんリスペクトの内容です。

 

全線再開は「南阿蘇鉄道が熊本県にあったから」?被災ローカル線の実情

ここで僕からお伝えしたいことは上記の鐡坊主さんの動画でほぼ触れられていますが、要するに鉄道というインフラ設備に対しての自治体による資金援助、というトピックです。これからの公共交通を考えるうえで避けては通れない問題であり、地方創生などに関心がある方は頭の片隅に置いておいて損はないかと思います。

被災の有無にかかわらず大半の地方ローカル線の運営が厳しい中で、都道府県が鉄道維持に積極的な場合には税金を用いた赤字補填の新たなスキームができている、というわけですね。原資が税金なわけですからかなり議論の余地がある問題です。

ざっくり言ってしまえば「熊本県が残す決断をしたから残った」南阿蘇鉄道。山を越えた宮崎県側にあった高千穂鉄道は、豪雨災害から復旧できずに廃止されました。県が違えば…南阿蘇鉄道の一連の”復活劇”が、これからもどんどん生まれてくるであろう地方ローカル線の問題をより深く考える機会となってほしいです。

第一白川橋梁と阿蘇長陽大橋を望む

(訪問日:2023年1月16日&18日)

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