今秋、西九州新幹線が開業したというニュースがありましたが、その区間の短さに驚いた方も多いでしょう。全区間乗り通しても30分弱。多くの方が在来線特急からの乗り継ぎとはいえ、新幹線に乗ったことを実感する間もなく到着、という印象だと思います。
しかし北陸新幹線には、その西九州新幹線よりもさらに短い時間で終点に辿り着いてしまう列車があるというのです。北陸新幹線といえば「かがやき」。でも、今回取り上げるのは同じ北陸新幹線でも、「つるぎ」号です。
つるぎ号、知ってる?
「つるぎ」という新幹線なんてあるの?という人も多いと思います。それもそのはず、「つるぎ」は、東京と金沢を結ぶ北陸新幹線の(現時点での)末端区間である富山〜金沢間のみで運行される列車名です。
この区間、中間には新高岡駅しかありませんので、現状ではわずか3駅の間でのみ運行される列車となります。北陸新幹線といえども首都圏や長野県では見られないので、聞いた事もないという方も一定数いるかと思います。
ですがこの「つるぎ」号、富山〜金沢間に限れば、関東でも見かける「かがやき」や「はくたか」よりも多くの本数が設定されています。両駅間は新幹線で20分少々の距離。なぜこれだけの本数が設定されているのか、そしてこの一瞬で終点に到着してしまう新幹線には誰が乗るのか。その謎に迫っていきます。
乗れない車両がある
富山駅にやってきました。今回は平日日中の「つるぎ713号」に乗車します。2駅しかないので、行き先表示も一瞬で終わります。
どう考えても距離が短くて存在感の薄い新幹線に乗ります pic.twitter.com/RYhJBZ8RnF
— musan|まち歩きライター (@musan_tr_gh) 2022年10月26日
使用される車両は「かがやき」「はくたか」と一緒。自由席の配置も特に変わりませんが、一部の指定席車両には乗車できず、グランクラスの設定もありません。また、車内販売もありません(そりゃそうだ)。
富山までは「はくたか」に乗っていましたが、車両が変わるわけでもないので、乗車しているうえでこれといった変化はありません。そうこうしているうちにあっという間に金沢に到着。
こんなに短い区間で終わるなら「はくたか」を増やせばいいのでは?と思う人もいるかもしれませんが、「つるぎ」を設定する理由には、北陸新幹線の持つちょっと複雑な構造が絡んでいると思われます。
2つの北陸新幹線
北陸新幹線と一言で言っても、途中で運行する会社が変わっていることに気付く方は意外と多くないと思います。
北陸新幹線は、新潟県の上越妙高駅を境に、東京方面がJR東日本、金沢方面がJR西日本の管轄となっています。上越妙高駅を跨ぐ区間での乗車の場合は2社での特急料金が別々にかかるので、同じ距離を1社で乗り通すよりも割高になっているのです。
そしてJR西日本の立場で考えれば、例えば富山から東京方面の新幹線の需要が伸びたところで、富山〜上越妙高間の収益しか発生しません。対して、金沢以西の北陸本線は全区間がJR西日本であるため、富山から金沢へ新幹線、そして乗り換えて福井や京都・大阪方面へ向かう需要が増えた方が会社の利益に寄与するわけです。
そこで登場するのが「つるぎ」号です。
つるぎ号の存在意義は、「2駅のみ」にあらず
「つるぎ」の役割は、単に富山〜金沢という短距離を結ぶというだけではありません。というより、その役割は非常に小さいと思います。
「つるぎ」の誕生経緯を知るにあたり、新幹線開業以前の北陸本線の特急列車について見ていきましょう。
インターネット上で閲覧できた資料によると、2015年の北陸新幹線金沢延伸直前の、北陸本線富山~金沢間における特急列車は上下合わせて80本(「サンダーバード」「しらさぎ」「はくたか」「北越」「おはようエクスプレス」の合計)。しかし、一部を除いて「サンダーバード」「しらさぎ」は富山以西での運行となっており、富山駅を挟んで東側では特急の本数はやや少なくなっていました。
一方で、現在の北陸新幹線の同区間における運行本数は概ね90本程度となっています。とはいえ先述の在来線特急の需要を考えればその全てを東京方面直通の「かがやき」「はくたか」とするのは明らかに供給超過。こうした現実的な視点から運行されているのが「つるぎ」であると言えるでしょう。
かつての特急「はくたか」「北越」の乗客流動を踏襲した新幹線「かがやき」「はくたか」に対して、新幹線「つるぎ」の立ち位置があくまでも部分廃止となった特急「サンダーバード」「しらさぎ」の代替であると考えれば、その一見短すぎる運行距離はむしろ妥当というか当然だと言えるわけです。
もう少しで敦賀延伸、つるぎ号の未来はいかに
北陸新幹線は、2023年度末(2024年春?)に金沢~敦賀間の延伸開業が予定されています。その際には「つるぎ」も富山~敦賀間の各駅停車タイプ列車として運行区間が拡大される見込みです。
これまで多数の特急列車が往来してきた区間であり、同区間での廃止が見込まれる「サンダーバード」「しらさぎ」を代替する存在として、いよいよ“本領発揮“の時を迎えそうです。
「つるぎ」が“短すぎる新幹線"であるのもおそらく残り1年半ほど。実際に北陸まで行って体験してみる価値はあるかもしれません。
(乗車日:2022年10月26日(水))